お知らせ・日記

HIROKA KISHIMOTO

伊勢型紙

想い

伊勢型紙をご存じですか?
江戸小紋を染める時に使う型紙です。


伊勢型紙は三重県鈴鹿市白子町で
作られています。
美濃和紙で作った地紙(彫る前の紙)に
職人さんが一心に型を彫ります。
息を詰めなければいけないほどの
それそれは細かい作業です。

今回は縞型に彫られている型紙を
あらかじめ二枚にはがし
染めの段階で型紙がよじれないよう
型紙と型紙の間に糸を渡して補強する
「糸入れ」という作業を拝見しました。


まず地紙に1枚の型紙を置き
柿渋を塗り空気を抜きながら
板にぴったりと貼り付けます。



貼った板に一回り大きな枠をはめ
突起している部分に
蚕の繭からとってより合わせただけの
生糸(きいと)を交互にかけます。


写真では見えにくいですが
細い生糸が何本もかけられているんですよ。

その上にもう一枚の型紙を
重ね合わせ置いていきます。


今回の型紙の縞型はいつもより
大きいらしいのですが、
見るとかなり細かいんです。
これをピッタリ合わせるなんて
本当にできるのかしら?と
思ってしまうほど。


今回は展示会なので空調があり
風の流れがある環境でしたが、
少しのずれがあってはいけないので
普段は空調のないところで
作業されるそう。


いつもより作業しにくい中
丁寧に丁寧に柿渋を塗りながら
2枚目を貼り合わせていきます。


この柿渋、紙を補強し接着する作用があります。
柿渋は以前、2~3件で作られていたそうですが
今では岐阜県に1件のみ。

しかも昔は5年かけて柿渋を発酵させ
作っていたものが、
今では3年で作っているそう。
すると、接着具合が今一つであったりと
何かと問題があるそうです。


貼り合わせた2枚の型紙、
やはり多少のずれがあったり
縞と縞の間がくっついていたり、
それを先の細い棒で手直ししていきます。

この作業もとにかく細かいんです。
見ている私も息を止めてしまうほど。



そしてきれいに合わせた後
糸を小刀で切っていきます。



こんな細い生糸が紙と紙の間に
挟まっているんですよ。

そして地紙をはがし
縞模様の隙間にたまっている
「渋だまり」(柿渋)を吹き飛ばします。

それからまた重なり具合
隙間の微調整をしていきます。


今度はより細い方を使って。

これで自然乾燥してまた柿渋を塗って
また乾燥、何度かこれを繰り返し
完成なのですが、今日の作業だけで
本当は2週間はかかるそう。


指導者として見守られていた方が

「精も根も尽きます」

と仰られたのがとても印象的で
では、どうしてされているのですか?
の問いに

「残していきたいから」

と仰られました。
ほんと、この言葉にはいつも
胸が熱くなります。

たくさんの時間と手間をかけ
作業をしても、この方たちには
ほとんど利益はありません。
この技術を残していきたいという
念いで続けてこられている。


素晴らしいことと喜びたい反面
私は着物の本当の価値を
伝えられているだろうかと
考えさせられます。

着物にはこういった
職人さんたちの技術の中に
貴い念いがたくさん込められているということ
伝え続けていきたいと思います。